【レポート】奥入瀬渓流での実証実験
2024 11 04
mobility : type_S
カテゴリ : Project
10月21日から27日、奥入瀬渓流にて実証実験を行いました。
青森と秋田にまたがる十和田湖から流れ出す、約14キロにおよぶ奥入瀬渓流。
国立公園(特別保護地区)、特別名勝および天然記念物として国の指定を受け、国内外から多くの観光客が訪れる日本有数の景勝地です。
一方、観光シーズンは渓流付近の交通渋滞や、自動車の排気ガスによる自然環境への影響が課題に。
そこで現在、渓流沿いの国道を迂回するバイパス工事が進められています。
バイパス完成後は一般車両の交通規制を実施。環境への負荷が少なく、歩行者と共存可能なモビリティの導入が検討されています。
「フィールドミュージアム」奥入瀬を舞台に
渓流を抱く天然林や、岩はだを覆う300種類近くの貴重な苔類など、手付かずの自然を鑑賞することができる奥入瀬渓流は「自然誌博物館」(フィールドミュジアム)といわれています。
今回の移動体験の主役は、それらの雄大な自然。
長い年月をかけて育まれた景観を楽しんでいただける移動体験を設計しました。
走行したのは岩壁沿いの道路、約500m。
苔で覆われた岩壁を流れ落ちる滝や、高く成長したカツラの木々、間近に迫る岩壁など、渓流沿いの遊歩道からは見えない景色が広がります。
それぞれのポイントではモビリティが自動で減速し、場所と連動した音声ガイドが流れます。
時速約1.5キロまで減速するため、気になったポイントで乗り降りできます。
音声ガイドは、自然と触れあう体験の妨げにならないよう情報量や流れるタイミングを調整。
また、渓流のせせらぎや、鳥のさえずりと一体となり、渓流内の自然音を引き立てるサウンドをBGMに。
モビリティの上では足元を気にしながら歩く必要がないので、視野は自然と広がります。
周囲を見渡し、撮影を楽しむ方も。
木々を見上げ、ときには目を閉じて渓流の音に耳をすませ、カツラの甘い香りを感じながら、深い自然林をすすみます。
およそ3日間で約200人の方にご乗車いただき「歩くよりもかえってゆっくり自然を楽しめる」「予約なしでガイドが聞けてよかった」といったコメントをいただきました。
ユーザーの体験にあわせた細やかなルート設計を
今回走行した道路は、渓流沿いの遊歩道と並走するような位置にあります。観光に訪れた人の多くは遊歩道を散策するため、道路を歩く方はまばらでした。
そんな中、多くご乗車いただいたポイントは、渓流沿いの遊歩道と、モビリティが走行する道路が近接する地点。
ここからは道路側を走行する様子が自然と視界に入り、興味を持って立ち止まってくださる方が多くおられました。
その上、このあたりは渓流沿いにある複数の観光ポイントを過ぎ、少し歩き疲れが始まる場所。
「歩いていて疲れたところにモビリティが見えたので乗ろうと思った」といった声もいただきました。
iinoのような小型モビリティは、ユーザーの体験に合わせた細やかなルート設計が可能です。
「ここはゆっくり観光したい」「そろそろ一息つきたい」など、場所や時間に応じて変化するユーザーの体験に沿って、乗り降りのポイントを複数設け、台数を変化させていく。
小さなモビリティだからこそできる可変的な体験設計が、自然と乗車をうながし「乗ってみたくなる」乗り物にしてくれます。
渓流の回廊へ
バイパス完成後は、車のない奥入瀬渓流が日常になります。
車の通らなくなった道路は、渓流の回廊のような役割を果たし、遊歩道からは見えない奥入瀬の姿を見ることができます。
目を閉じ、耳を澄ませ、香りを感じる。ときには降りて、苔や木の葉に触れてみる。
iinoは歩行のサポートとなるのはもちろん、そこでの体験をより深く心に残るものとしてデザインするためのツールとなります。
交通のための「道路」から、奥入瀬の新たな姿にであう「回廊」へ。
その転換点において低速の自動走行モビリティができること。
それはこれから大きく変わりゆく奥入瀬の、まだ知られていない魅力をより深く届けるものになると信じています。