

















iinoってどうやったら止まるんですか?
2026 10 15
mobility : type_S712
カテゴリ : Project
iinoに乗っていただく皆さんに、よく聞かれる質問の一つです。
iinoは自動走行。安全に走るために常に私たち人間の動きを見ています。ですので、前に立てばちゃんと止まってくれますし、近くをすれ違うと減速します。
では、乗っているときはどうやったら止まるのか。乗りたいところで乗って、ルートに沿って進み、降りたいところで降りる。そんな乗り方をお勧めしたいのですが、走っているiinoから飛び降りてもらうわけにもいきません。
そこで使うのが、手すりの「stop」です。とはいったものの、ただ文字が書いてあるだけ。ボタンは見当たりません。では、どうやって止めるのでしょう。
答えは、触れるだけ。
「stop」の文字のところにタッチセンサが入っています。強く押しこむ必要はありません。「stop」に触れれば、iinoは止まります。しかし、最初からそうだったわけではありません。
iinoの止まり方は、手すりと一緒に変わってきました。
乗っている人が手を置くのは手すりなので、減速の仕組みも、手すりの形に合わせて変わってきたのです。
かざして減速させていた頃
最初期のiino type-S712には、手すりの横に手をかざすと減速するセンサをつけていました。
降りるときの一連の動きの中で、自然に手が届く位置を選んだつもりでした。手すりの角には、丸みをまったくつけていません。iinoのあの形状は床がせり上がってできたもの。そんな考えを持っていたため、天板の層にも丸みをつけない方針だったのです。
けれど、手すりは手すりだと思ってもらえず、センサの場所もわからない人がほとんどでした。
そこで2号機では、上から見てもわかるように「ひさし」をつけることにしました(画像は倉庫から引っ張り出したもの)。すると、横のカメラも相まって顔に見えるようになり、メンバーからは「くちばし」と呼ばれるようにもなりました。
握り込む手すり
それでもわかりにくく、神戸・三宮の実証実験では、手すりを握り込めるようにし、センサをその奥に仕込むことに。
握る動作と乗り降りのための減速機能とを、連続した操作の中に実装できないか議論するようになったのもこの頃からです。
あわせて、以前から課題だった手放し乗車を減らすため、奥まで握ると速度が上がる機能も加え、加速するところと減速するところを色分けしたのでした。
しかし防水の都合でセンサを手前に出せず、減速のセンサは手すりの奥にしか置けませんでした。
これでは、降りるときに「奥まで触って減速」というのは、なかなか伝わりません。しっかり握りこまないと反応しなかったこともあり、握る方式は一回きりで終わりにしました。
説明しなくてもわかるパイプ
当時、社会実装も近づいていました。実運用では遠隔監視が前提になります。乗る人にその場で説明するわけにもいきません。
それなら説明しなくてもわかるものにしようと、今度は天板にパイプを立てて手すりとし、そこに防水の減速ボタンをつけてみました。
その結果、手すりもボタンも、乗る人に正しく認識され、よく使われるようになりました。ボタンがあるのは現在と異なりますが、握る場所を変えるだけで減速できるという点では今の形式の原型かもしれません。
ふたたび木の手すりに
ところが、金属製のパイプは夏になると熱くなって、握りにくくなるのです。
それに、木の温もりがなくなってしまった。いちばん手が触れるところが金属というのは、iinoらしくないのではないか。
社内では議論と試作の日々が続きました。
そんな中で出てきたのが、タッチセンサを利用して、「slow」に触れたら減速する仕組みでした。薄い木越しでも触れたのを拾えるので、表面は木のままでいい。夏も熱くならないですし、押し込む必要もありません。
今度は木に丸みをつけ、やすりも目の細かいものに変えました。握りやすい丸みと、指が引っかからないような間隔を両立しています。木の温もりも、防水も、わかりやすさも、いっぺんに満たそうとしたのが今の手すりです。
しかし、この形状ではパイプほどのわかりやすさはありません。乗る人に手すりだと認識してもらえるのでしょうか。
そこで、高輪ゲートウェイシティにて社会実装する際は文字だけでなく、iinoからの音声、AIM(Area Information & Mobility)スタッフの声掛け、街のサイネージを通して、手すりと減速機能の存在を周知しました。
説明なしで伝わるデザインももちろん素晴らしいと思います。
ですが、私たちの場合はなるべくシンプルなシルエットを重視しつつも、説明は念入りに行う。こうして、設計思想とユーザの認知との間でバランスを取ろうとしたのです。
slowからstopへ
実運用を始めると、実証実験のとき以上に幅広い層の方々、特にシニアの方や子どもたちにも乗ってもらえるようになりました。降りるときは、ゆっくりになるよりも、きちんと止まってから降りてもらうほうが安心です。
実運用の現場を観察した結果、減速のための「slow」は、止まるための「stop」に変わりました。
このような経緯で、手すりの「stop」の文字は生まれました。
改良はこれからも続く
とはいえ、知らない乗り物に乗るのは、それだけでものすごい情報量。今の「stop」でも、状況によってはわからない人がいてもおかしくありません。木の上に乗って木に触れて止めるのは、シルエットも変わらないしコンセプトの邪魔もしないけれど、馴染みがないのも確かだと思います。
止まり方に限らず、途中で逆向きに走ってほしくなったときにどうするか、などの議論も同じで、機能をユーザが認識してから操作するまでの流れは議論の余地がたくさんあります。
前例のない乗り物なのでセオリーもなく、気づいてもらうための目印ひとつとっても、何が正解なのかはこれから決まっていくもの。
iinoは動く家具を目指していますが、タンスには「PULL」とは書いてありません。
文字や目印でわかりやすくするのか、わかりにくさもひっくるめて面白がってもらえるようにするのか。今も実験し続けている真っ最中です。
乗ってみて戸惑うことがありましたら、ぜひ近くのAIMスタッフやメンバーに尋ねてみてください。その率直な疑問こそが次のiinoを形作ることでしょう。



